遺言

1.概要

(1)背景や概要

被相続人が亡くなった場合、その財産は相続財産として法定相続人の共有となります。
遺言書が残されていない場合は法定相続人同士の遺産分割協議によって相続財産の分割内容や方法を決める必要があり、もし全員の合意が得られず協議がまとまらないと、相続財産が共有状態のままにされることで様々な弊害で生じる可能性があります。

しかし、もし被相続人が生前に遺言書を残していれば上記のリスクを未然回避できる可能性が大きくなり、また相続に係る手続きも比較的簡易になります。

(2)要件など

・遺言者の意思能力がある
・遺言書がその形式に沿って作成されており、法律的に実現可能な内容で記載されている
※法定相続人の遺留分(最低限の保障額)を侵害する内容でも遺言書は有効だが、侵害額の請求を受ける可能性は残される
・遺言書形式によって必要書類が異なり、証人立会が必要(秘密証書、公正証書)なものもある

(3)メリットとデメリット等

遺言書の種類保管場所検認有効性保証自筆要否手数料必要書類備考
自筆証書遺言(本人保管)本人必要×・本文全て
・目録への署名捺印
なし遺言書のみ。
秘密証書遺言本人必要×署名捺印11,000円/通
+(証人を手配してもらう場合)証人報酬
封印した遺言書、本人確認書類
公正証書遺言公証役場不要署名捺印・相続または遺贈を受ける人ごとの財産価額に応じた手数料の合計
・(財産総額が1億円以下の場合)+11,000円
・(公証人側で証人を手配した場合)5,000~10,000円×2人分
※金額の決め方は不明。
・(公証人が出張した場合)手数料割増+日当+旅費(交通費や宿泊費の実費分)
・遺言内容のメモや下書き
・以下の添付書類
①遺言者の印鑑証明書、又は運転免許証、旅券、マイナンバーカード等の官公署発行の顔写真付き身分証明書
②遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本や除籍謄本
③(法定相続人以外への遺贈の場合)受遺者の住所記載があるもの(住民票、手紙、ハガキその他)。受遺者が法人の場合は法人登記事項証明書または代表者事項証明書
④(不動産の相続の場合)登記事項証明書+固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
⑤(預貯金等の相続の場合)預貯金通帳等、又はそのコピー
⑥(自身で証人を用意する場合)証人予定者の氏名、住所、生年月日および職業のメモ
(メリット)
・入院中など本人が出頭できない場合は出張もしてもらえる

本人出頭。出張も可能。自筆不要
・公証人との事前打ち合わせが必要
・添付書類もやや多い
自筆証書遺言(法務局保管)遺言書保管に対応する法務局不要×・本文全て
・目録への署名捺印
3,900円/通(収入印紙)自筆遺言書、申請書、添付書類(住民票、顔写真付身分証明)本人出頭。代理や郵送は不可。
全文、作成日、遺言者氏名は自筆。財産目録についてはパソコンでの作成や資料での添付可能(全ページに署名捺印が必要)。

一概にどれが良いとは言えませんが、「内容の複雑さ」「手書き」「保管」「料金(士業に依頼した場合の報酬除く)」「秘匿性」「相続人の手間」によって選択肢が分けられるかと思います。

自筆証書遺言(法務局保管)の秘匿性が高く料金も安価で検認不要なため、秘密証書遺言の出番はほぼ無いかもしれません。

良さそうな遺言書内容手書き保管料金秘匿性相続人の手間
自筆証書(本人保管)シンプル全然OK自信ありかけたくない無し
※もっとも検認を経ずの開封は過料の対象だし、改ざんは相続欠格。
あり(検認)
秘密証書シンプルできるだけしたくない自信あり少し多めにかけても良いあり
※遺言書自体の存在は隠せない
あり(検認)
公正証書複雑できるだけしたくない自信無し多めにかけても良い無し
※正本や謄本を隠せば秘匿性有りだが、紛失や発見されないリスクあり。
ほぼ無し
※正本や謄本が見つからない場合は遺言検索謄本請求必要。
自筆証書(法務局保管)シンプル全然OK自信無し少しだけかけたいあり少ない
遺言書情報証明書の交付請求、場合によっては遺言書保管事実の確認も必要。
情報変更時に届出が必要

-指定相続人が法定相続人の場合に必要となる戸籍について
・検認の場合はフルで必要。「被相続人の出生~死亡の戸籍謄本」「法定相続人全員の現在戸籍抄本」
※数次相続の被相続人や被代襲者についても出生~死亡の戸籍謄本が必要。
・公正証書や自筆証書(法務局保管)の遺言では関係者部分のみで良い。「①遺言者と指定相続人との関係が分かる戸籍謄本」「②被相続人の死亡が分かる戸籍謄本」「③指定相続人の現在戸籍抄本」
※公正:遺言作成時①+相続手続時②③。自筆(法務局保管):情報証明請求時①②+相続手続時③

2.手順や必要書類

(1)手順

①財産を把握したうえで遺言内容を決める

②遺言書下書きの作成

・「(2)遺言書の書き方や文例」のサイト等をご参照。

③原本作成

・自筆:本文手書と署名捺印。財産目録等の添付書類についてはパソコン作成や資料コピーでも良いが全頁に署名捺印が必要
・秘密:署名捺印部分以外はパソコンで作成可能。封筒に入れて封印。
・公正証書:公証役場にて公証人が作成。本人と証人、公証人の署名捺印。予約や事前の打ち合わせ必要

④保管

・自筆証書(本人保管):封筒へ封印のうえ自身で保管
・秘密証書:公証役場にて公証人が遺言書の証明をする。封筒へ日付や申述記載のうえ本人と証人、公証人の署名捺印
・公正証書:正本と謄本を自身で保管。原本は公証役場にて保管(遺言者の死後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年)される
・自筆証書(法務局保管):原本は法務局にて保管(遺言者の死後、原本50年。画像150年)される

⑤(遺言内容以外で)変更があった場合の届出

-自筆証書(法務局保管):以下に変更があった場合は届出
・遺言者自身:氏名、出生の年月日、住所、本籍(又は国籍)及び筆頭者
・遺言書記載の受遺者等・遺言執行者等:氏名又は名称及び住所等

※変更しておかないと通知時の支障にもなり得るし、情報証明書請求時にも追加で変更履歴を証明する必要が出てくるかと思われる。

⑥遺言者死亡後

・自筆証書(本人保管)と秘密証書:家庭裁判所にて検認
・公正証書:すぐに各遺産の相続手続に移れる
・自筆証書(法務局保管):遺言書情報証明書の交付請求

(2)必要書類

上の「(3)メリットとデメリット等」で記載したので省略。

(3)公正証書遺言の証人になった場合

証人立会についても以下触れておきます。
管轄によって異なるかもしれませんので、その点ご了承。

-証人立会での流れ

[1]立会日時の確定

・(遺言者が用意した証人の場合)遺言者から公証役場での予約日時を伺い予定確保
・(証人受託名簿に登録している士業の場合)公証役場から電話連絡があるので、予定日時に対し受任可否を回答する

[2]当日立会

「当日持参」
・本人確認書類 ※マイナンバーカードや運転免許証。士業の場合は証票
・印鑑     ※実印でなくともシャチハタで無い認印で可

①開始前

・早く着いた場合は中で待たせてもらえる
・事務員の方が本人確認書類や士業証票のコピーをしてくれ、遺言書記載の証人住所についても確認される
・(士業が証人の場合)遺言者へ証人の本人確認書類コピーが渡される
・公証人からの手順説明
証人は基本的にやり取りを聞くのみ。自身の氏名住所等の記載ミスがあった場合は指摘。
事前に公証人が遺言者とのやり取りを何度も行っているので、本人確認や意思能力も済みの場合が多いらしい。

(2)立会

①公証人からの遺言者への本人確認

・氏名、住所、生年月日、干支、親の名前等
※証人側は本人確認書類や顔写真での遺言者照合はしない。

②本人による遺言内容の読み上げ

・一言一句正確に読むとは限らず本文に誤記がある可能性もゼロでは無いので、注意は必要

③公証人による遺言書原本読み上げ

・副本が遺言者と証人2名に渡され、公証人の読み上げ内容との照合をする

④証人2名による署名捺印

・署名捺印前に証人の住所氏名が正しいか確認

⑤謝礼受領

・遺言者から直接現金にて受領。領収書は特に必要無し

⑥終了

-その他留意点など

公証人による事前チェックがあるのでリスクはほぼ無いでしょうし、証人が立会で確認すること以外も含まれますが、いくつか注意点を挙げておきます。

no注意点内容
1遺言者が出頭者と同一人物
2遺言者が認知症などにかかっていない精神状態は正常か。正常な判断力を持って自身の意思で遺言しているか。自身の意思で口述しているか。
3遺言者が会話できる状態公証人が被相続人の病室に出張して遺言書作成したが、実際は被相続人は会話できない状態だった等のケースもあるとのこと。
4何らかの強制力が働いていない公正証書作成前の暴力や脅迫に起因して、公正証書作成の時点で強迫状態から脱していなかった
5遺言者の口述や公証人の読み上げによる内容が、遺言書と相違ない
6証人が欠格者(右に記載)でない①未成年者
②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
7受遺者が相続欠格者(右に記載)でない①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
8遺言書における証人の氏名住所記載が間違っていない

 

(4)提出や問い合わせ先

①自筆証書遺言(法務局保管)

・住所地(または本籍地、所有不動産の所在地)を管轄する法務局管内の遺言書保管所
・予約方法:法務局手続案内予約サービスでのWEB予約、または電話や窓口訪問にて
※予約サービスは利用者登録無しでも使えますが、メールアドレスは必須です。

②秘密証書遺言または公正証書遺言

・最寄りの公証役場へ:電話またはメール
(いわきの場合)いわき公証役場
所在:〒970-8026 いわき市平字菱川町1-3 いわき市社会福祉センター4階
TEL:0246-23-4066
メール:iwaki-koshonin(アットマーク)sky.plala.or.jp ※ご使用時は(アットマーク)は@へ読み替え。

3.注意点

注意箇所備考
WEB予約については、士業や受遺者等が本人了承のうえで代わりに操作するのも可能・例えば本人がスマホやメアドを持っていない場合に、本人の予定や了承を確認したうえで同行者や士業がWEB予約操作を行うのはOKらしい
※もちろんメール連絡への対応等のケアは必要。
遺言者の自筆作成が中々難しい場合・誤記の場合の修正や注記も含め、自筆での作成が難しい場合は公正証書遺言が推奨される
・保管申請時に判読可否の確認はしてもらえるので、何とか作成できたならば申請できる可能性はある
自筆証書遺言(法務局保管)での余白確保ミスはあるらしい・最低「上5下10左20右5」mm以上の余白を確保する必要がある。余白内へのハミ出しや書き込みも不可
※例えば「上10下15左25右10」mm等と多めに余白を取ってページ内罫線を引いておけば、安全と思われる。
カーボン紙での複写を用いた遺言書作成について・自筆として認められた判例はあるが、偽造の可能性は排除できない模様
大阪遺言・相続ネット/カーボン複写方式による自筆証書遺言は有効か?
(余談)視力が弱い方の誤記防止のために、PCにて大文字で本文を作成しカーボン紙の上からなぞっての転記はどうかと考えた。つまり他者による下書きなぞりと同等。
なぞればパソコン文字の字体に似るし、なぞらなくとも字体が見本から影響を受ける可能性はあるので、自筆としては論外なのかもしれない
自筆証書遺言(法務局保管)では、遺言内容についての相談は受けられず遺言書の有効性についても保証はされない。(余談)上と関連するが、遺言者自身が遺言書持参で保管申請をするのだから、一見他人のものや偽造されたものが持ち込まれる可能性は無さそうにみえる。
しかし誤った遺言書の持参可能性はあるし、遺言書作成時の意思も当然確認できない。
つまり保管と判読可否チェック、手続簡素化以外は自身保管の場合と変わらない
※もし自筆や本人意思について疑われる可能性があるならば、本人による遺言読み上げや清書時を動画に残してデータ保管しておくのがベターと思われる。もちろん遺言ではなく遺言における意思確認の記録として。

4.当事務所のサービス内容と料金

サービス料金(税込)
自筆証書遺言書の起案30,000円~
公正証書遺言書起案や事前確認・手配50,000円~
証人就任5,000円

※難易度や労力によって料金は変わります。

5.ご参考HP

(1)公式HP

法務省/自筆証書遺言書保管制度について
02 遺言者の手続
03 遺言書の様式等についての注意事項
04 相続人等の手続
06 申請書/届出書/請求書等
08 予約 〜予約をお取りください!〜
日本公証人連合会/公証事務/2遺言

(2)遺言書の書き方や文例

函館地方法務局/自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)
ベンチャーサポート相続税理士法人/遺言書の書き方・文例・見本・サンプル集|カンタン自動作成できる遺言書の下書き
弁護士法人デイライト法律事務所/自筆証書遺言(遺言書)のひな形|遺産別文例・テンプレート集

6.更新履歴

更新履歴

・2025/04/20:ページ公開
・2025/04/21:「3」追記

 

 

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