1.概要
(1)背景や概要
被相続人が亡くなったあと遺言書が無い場合は基本的に、遺産を承継する権利を持つ「法定相続人」全員で分割方法を話し合う「遺産分割協議」が必要となります。
その際に基準となる分割割合が民法で定められている「法定相続分」になります。
本ページでは「法定相続人」確定と「法定相続分」計算の方法について説明します。
また、遺言書が存在し例えば一人に全財産が相続される旨の記載があった場合、法定相続人がある価額まで請求できる「遺留分」の計算についても触れています。
2.法定相続人と法定相続分
(1)法定相続人
①基本
・被相続人から見て[配偶者]+([子]>[親]>[兄弟姉妹]の順でいずれか)
※[配偶者]のみ、[配偶者]+([子]or[親]or[兄弟姉妹])、([子]or[親]or[兄弟姉妹])のみの7パターンあり。
下記の具体例ご参照。
②代襲と再代襲
・(代襲)被相続人死亡時に既に子が死亡していた場合、孫が法定相続人になる。兄弟姉妹も同様。
・(再代襲)子も孫も死亡の場合は曾孫が法定相続人になる。同様にその下の卑属にも再代襲に制限無し
※兄弟姉妹は再代襲無し。
・養子縁組による子の連れ子には代襲権無し
・欠格や廃除(兄弟姉妹不可)は代襲要因になる。放棄は代襲にならない
※放棄はそもそも法定相続人で無かったことになるため。
欠格、廃除、放棄についての詳細は「相続会議」さんのページご参照。
③直系尊属
・父母が死亡し祖父母が生存の場合は、祖父母が直系尊属として法定相続人になる
現実的にはほぼ無いがその上も制限なし。祖父母が居なければ曾祖父母がなる。
④非嫡出子(婚外子)
・非嫡出子も子と同様
(2)法定相続分
①基本
遺産全額を割合1とします。
・[配偶者]or[子]or[親]or[兄弟姉妹]のいずれか一つのみの場合→どの場合も[1]
・[配偶者]+[子] → [1/2]:[1/2]
・[配偶者]+[親] → [2/3]:[1/3]
・[配偶者]+[兄弟姉妹] → [3/4]:[1/4]
②[子]or[親]or[兄弟姉妹]が複数
・人数で等分
・子については、非嫡出子も異父母の場合も同じ割合
・ただし兄弟姉妹については、「異父母兄弟」は父母双方が同じ兄弟の1/2になる
③特別受益(法定相続人への生前贈与や遺贈、死因贈与)や寄与がある場合
・特別受益分は財産総額に足して、分割後の受益者の価額から引く
※受益者は既に利益を受けているので、その分を加味して相続分を減らすイメージ。
・寄与分は財産総額から引いて、分割後の受益者の価額に足す
※寄与者が貢献した分は財産価額に入れないイメージ。
④特別寄与や法定相続人以外への贈与・遺贈がある場合
・遺産価額から引く
※あくまで相続分の計算上ではということで、贈与・遺贈に対する遺留分侵害額請求の際には遺産総額に含まれる。
⑤数次相続がある場合
・一次と二次、三次・・・は分けて考える
・法定相続情報一覧図は各次別個に申出する必要があるので、相続関係説明図も分けて書いた方が〇
⑥相続放棄した者がいる場合
・相続放棄者は最初から法定相続人で無かったことになる
※子供2人うち1人が相続放棄した場合。子供1人として計算し直し。
・親や兄弟姉妹の代が法定相続人に繰り上がることもあるので注意
⑦遺産分割協議での辞退者(相続分の放棄)がいた場合
・辞退者分を、残りの法定相続人の元の比率で配分
※辞退者分を割り振るよりも、最初から元の比率で割った方が早い(注意点ご参照)。
3.遺留分
遺言書の内容次第では、第三者への遺贈や特定の法定相続人が多く相続することにより、その他の法定相続人が全く相続できない可能性も出てきます。
その場合でも、法定相続人には一定割合で財産を引き継ぐ権利が与えられており、それを「遺留分」といいます。
遺留分侵害に不服がある場合は、遺贈や贈与を受けた相手に対して遺留分侵害額請求(旧法での遺留分減殺請求)を行うことができます。
話し合いの協議で解決しない場合は、調停や訴訟に発展する可能性があります。
※遺留分侵害額請求の時効は「相続と遺留分侵害を知ってから1年以内」か「(知らなくとも)相続開始から10年」。詳細は相続会議さんのページご参照。
遺留分の計算方法は以下。
・親のみの場合は1/3
・兄弟姉妹には遺留分無し
従って法定相続人が[配偶者]+[兄弟姉妹]の場合は、遺留分を持つのは[配偶者]のみ
・あとは法定相続分の半分と覚えれば良し
※つまり遺留分合計は親のみの場合1/3、それ以外は1/2。
4.具体例、注意点
(1)具体例
法定相続人になり得る範囲の親族が存命している場合の具体例。
法定相続人を探す意味で、他の親族の情報も入れています。
おまけとして昔作った独自ツール「法定相続分自動計算シート」の使用例も入れておきます。
(2)注意点
注意点 | 備考 | ご参考 |
---|---|---|
相続放棄があった場合の繰り上がり | ・家裁で相続放棄した者は最初から法定相続人で無かったことになり、次順位が繰り上がり法定相続人となる ・代襲相続は発生しないので、その下の代が繰り上がることは無い ・親の場合は特殊。両親とも放棄した場合のみ祖父母の代に移る (例)両親生存の場合で父のみ放棄→母が法定相続人 祖父母全て生存の場合で父母両方とも放棄→父方母方の祖父母4人が法定相続人 | -相続会議/相続放棄の範囲はどこまで?孫、叔父叔母、祖父母への影響やトラブルを避けるための対処方法は |
被相続人に大きな負債が有った場合のリスク | ・債権者の承認が無い限り、遺言書や遺産分割協議で誰が負債を引き受けるか決めたとしても無効 ※債権者側は法定相続人の誰に対しても法定相続分での支払請求が出来るので相続放棄が重みを増してくる。相続放棄によって法定相続人が変化した場合にも慎重さが求められるはず。 一応(?)、遺産分割協議で定めた債務引受者の代わりに債権者へ債務弁済した法定相続人が、その引受者へ求償することは出来る。 | -司法書士事務所梅田リーガル/債務の遺産分割はできるか? -遺言書に債務や借入金の記載は必要か?民法改正で債務の記載が重要に! -民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使) ※この条文は遺言書に対する記載だが、遺産分割協議についても同様の判例が出ている。 |
遺産分割協議で法定相続人の一部が辞退した場合の、法定相続分の変化 | ・辞退した分を、残った法定相続人について元の割合で分配 ※これだと分かりにくいので、辞退した法定相続人を除いた元の比率で再計算した方が早いかも? (例)法定相続人が妻と子4人の場合 通常:妻1/2、子1/8×4人 子1人が相続放棄:妻1/2、子1/6×3人 〃 が辞退(相続分の放棄):妻4/7、子1/7×3人 ※割り振る形だと妻1/2+1/8*4/7=32/56、子それぞれ1/8+1/8*1/7=8/56。総額を4:1:1:1で分けた方が早い。 | -札幌相続相談所/相続放棄と相続分の放棄は違う |
もし大きな債務が意図的に隠された場合の危険性 | ・さほど債務が無い前提で財産目録を作成し、遺産分割協議書を作成したが、後で大借金が見つかるor出てくるケース 行政書士等の士業は依頼されたまま相続業務を進めているだけなのだが、相当に危険な状況に巻き込まれ兼ねない。 ・法定相続人が債権者に実効的支配を受けており債務を隠したり、債権者がわざと遺産分割協議がまとまるまで債権を伏せるなど、悪意があれば隠蔽が容易く相続放棄の妨害がし易いのも厄介と言える ・法定相続人同士のコンタクトが薄い場合は特に注意が必要かもしれない | |
5.当事務所のサポート内容と料金
(1)サポート内容
・戸籍等の読み込みによる法定相続人確定
・法定相続分と遺留分算出
・相続関係説明図作成
(2)料金(税込)
・相続関係説明図作成:15,000円~
※その過程で法定相続人確定、法定相続分と遺留分も算出します。
6.ご参考HP
7.更新履歴
・2023/10/13:ページ公開
・2023/10/21:記事修正
・2024/09/02:「4-(2)」追記
・2024/09/15: 〃
・2024/09/17:「2」「4」追記
・2024/09/20:「4」追記